福岡地方裁判所 昭和45年(行ク)7号 決定 1971年3月11日
申立人
山下満子
代理人
谷川宮太郎
外二名
被申立人
立花町長
中尾順蔵
代理人
苑田美穀
外二名
主文
被申立人が、昭和四五年九月三〇日に、申立人に対してなした免職処分の効力は、本案判決の確定までこれを停止する。申立費用は被申立人の負担とする。
理由
一申立人の申立ての趣旨は主文と同旨、その理由は、別紙(一)記載のとおりであり、被申立人の意見は、別紙(二)記載のとおりである。
二当裁判所の判断
疎明によれば、申立人は、昭和四五年四月任命権者である被申立人によつて立花町職員として採用され、以来同町立第五保育所の保母として勤務していたところ、条件付採用期問中の同年九月三〇日付で同町職員条件付採用に関する規則第六条に基き免職処分に付されたことが明らかであり、また、同年一一月二七日、申立人から右免職処分の取消を求める本案訴訟(前掲昭和四五年(行ウ)第四九号免職処分取消請求事件)が福岡地方裁判所に提起されたことは、当裁判所に顕著な事実である。
しかして本件申立ては、条件付採用職員免職処分の効力の停止を求めるものである。
ところで、前記立花町職員条件付採用に関する規則第六条は「条件付採用期間中の職員は、その勤務について十分且つ公平に審査した結果、その成績が良好でないと認められる場合には町長は、条件付採用期間中の何時でもその意に反して免職することができる」と規定し、条件付採用期間中の職員を免職するかどうかについて、町長に広範な裁量権を付与している。しかしこのことから、町長がなんらの事実上の根拠に基づかないでも免職処分をなす権能を有するものと断定することは許されず、免職処分が全く事実上の基礎を欠く場合には違法となり、この点の町長の認定が裁判所の審判に服すべきことは、当然であるといわなければならない。
また、条件付採用職員といえども、法の成績主義の原則に則つた試験又は選考の過程の選別を終えており、条件付採用制度が右の成績主義の完全を期するため不適格者を排除することを本質とする以上、その目的を達するため客観的、合理的な必要性を超えて条件付採用期間中の職員を免職してはならないとの制度上の制約が既に内在しているといわなければならない。また、条件付採用職員は、既に一定の給与の支払を受け、正式採用されることへの期待権を有していることをも考えると、条件付採用職員の権利を剥奪する免職処分には、引き続き任用しておくことを不適当とする合理的な理由が必要である。
いま、本件についてこれをみるのに、疎明によれば、以下の事実を認めることができる。申立人は、昭和四四年三月福岡香蘭女子短期大学を卒業し、久留米市所在の私立津福保育園の保母をしていたが、通勤の都合から、立花町平島総務課長補佐のすいせんを得て、前記のように、立花町職員として採用され、昭和四五年四月以来同町立第五保育所(所長馬場早智子)の保母として、年中児(三、四才児)の保育を担当してきた。
ところで、立花町では、条件付採用職員に対しては、条件付採用期間中の勤務成績および職務に必要な適格性の判断に資するため、「条件付採用職員の勤務成績の評定に関する規程」に基づき、「応用力」「忍耐力」「機智」「気分の恒常」等二〇項目について、監督者がいわゆる五段階評価方式で第一次、第二次二回にわたり、勤務評定を行なうこととされていた。そして、申立人の場合には、その監督者である立花町厚生課長竹島保が右二回の勤務評定を行なつた。しかし、同課長は、たまたま組織・機構上、保育所職員を監督する地位にあつたものの、同課長の平時の執務場所と保育の現場とは場所的に離れており常時保育所職員の勤務ぶり等を観察できる立場ではなかつたにもかかわらず、前記馬場所長ら現場の意見を何ら考慮に入れずに、極めてわずかな、しかも短時間の第五保育所訪問のさいの観察と風評をもとに、前示二〇項目について申立人を評定した。
他方、申立人は立花町職員に採用されて後、同年五月頃足を捻挫してからは若干身体の調子をくずし、種々の病名で通院治療を受けることがあつたが、この間欠勤は勿論遅刻早退も極めて少なく、格別保育の職務に支障を来たしたことはなく、むしろ右疾病にもかかわらず、これに耐えて幼児との激しい接触を要する自己の職務を熱心に行なつて来た。
以上一応認定した事実からすれば、被申立人の挙示する免職処分の事由については、いささか疑問なしとしない。もとより本案について証拠調べの進行していない現段階において、軽々にその結論を云々することはできないが、少なくとも、本案について理由がないとみえるとはいいえないであろう。
そこで本件免職処分の効力を停止する必要性の有無について考えるに、疎明によれば、申立人は、立花町職員として在職中両親のもとに同居し、両親および姉妹らと同一世帯(世帯人員七名)を構成していたが、右世帯は大世帯であるうえ、姉妹らはいずれも高校、短大等に在学中であつたから、これに要する教育費は相当額にのぼり、借金の返済も加えると毎月の生活に要する諸経費は、八女市に勤務する父親の賃金一三万円弱(税込み)では賄い切れず、ために申立人は立花町より支給される賃金をもつて自己の生活を維持するとともに一部を世帯の経費にあてるため提供していたこと、ところが、本件免職処分によつて、申立人は、昭和四五年一〇月一日以降、世帯の経費の不足を補填することは勿論、自己の生計を維持することも不可能となり、かえつて自己の生活の維持を父親に全面的に託さねばならないという申立人にとつても、世帯にとつても誠に不安定な生活を余儀なくされるに至つたことが窺われる。
とすれば、本件免職処分によつて、申立人は回復困難な損害を蒙るおそれがあるものであつて、これを避けるため、右処分の効力を停止する緊急の必要性があるというべきである。これに反し右免職処分の効力を停止したとしても、公共の福祉に重大な影響が及ぶものとは到底思われない。
以上の次第であるから、申立人の本件申立は理由があるものとしてこれを認容することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(権藤義臣 油田弘佑 吉武克洋)
別紙(一)
申立の理由
一、申立人は昭和四五年四月一日、立花町職員として採用され(六カ月条件付採用職員)、以来立花町第五保育所に保母として勤務していたものであり、かつ、立花町職員でもつて組織する自治労立花町職員労働組合(以下立花町職労という)の組合員であつたものであるが、昭和四五年九月三〇日に、申立人の任命権者である被申立人から立花町職員条件付採用に関する規則第六条の規定に基づき免職処分(以下本件免職処分という)を受けた。
二、しかし本件免職処分は、次の理由で違法であるから取消されるべきである。
(一) 立花町職員条件付採用に関する規則第六条によれば、「条件付採用期間中の職員は、その勤務について十分且つ公平に審査した結果、その成績が良好でないと認められる場合には、町長は、条件付採用期間中の何時でも、その意に反して免職することができる」旨規定されているが、申立人には「その成績が良好でないと認められる場合」に該当すべき事実はない。
ところで、右規則第六条によれば、条件付採用期間中の職員に対する免職処分は、任命権者の広範な自由裁量に属するかのように解される余地もないではないが、然し、条件付採用職員の身分保障を考える場合、右の解釈は到底成立しえない。第一に、人事院規則一一―四第九条は、条件付採用期間中の職員らに対する身分保障の見地から、条件付職員を免職処分に付するには一定の不適格事由が客観的・合理的に確定されなければならない旨規定するが、右規定の趣旨は本件立花町職員条件付採用に関する規則第六条にもそのままあてはまるものである。さらに、条件付採用職員といえども、法の成績主義の原則に則つた試験又は選考の過程を終えており条件付採用制度が右の成績主義の完全を期するため不適格者を排除することを本質とする以上、その目的を達するため客観的・合理的な必要性を超えて条件付採用期間中の職員を免職してはならないとの制度上の制約が既に内在しているといわなければならない。また、条件付採用職員は、現に一定の給与の支払いを受け、正式採用されることへの期待権を有していることをも考えると、条件付採用職員の権利を剥奪する免職処分は、引き続き任用しておくことを不適当とする合理的理由が必要である。
従つて、立花町職員条件付採用に関する規則第六条は、その内在的制約として、条件付採用職員を免職処分にするには、当該職員に対応する労務提供の能力についての不適格性が合理的・客観的に認定されなければならず、かつその判断は、客観的な勤務成績、勤務態度等の具体的な基準によるべきであつて、決して任命権者の恣意的な判断によるものではなくそれはいわば覇束裁量に属すると解すべきことになる。
しかして、被申立人は右規則第六条該当の免職理由につき申立人は勤務評定の結果成績が良好でないと判断されたことおよび保母としての職務に必要な適格性を欠くことを挙げるが、しかし本件執行停止全般を通じて何ら立証はなされていない。
(1) 勤務評定の結果といつても、その採点は保母業務に無知で未経験な竹島厚生課長が、現場の意見(馬場所長の意見)を何ら考慮に入れずに、しかもわずか二回の第五保育所訪問のさいの「観察」を基にしたものであつて、極めて主観的恣意的になされたものであることは疑いをまたない。さらに竹島課長は、標準以下として採点した「応用力」「忍耐力」「機智」「気分の恒常」が、一体何を意味し、従つて当該申立人にいかなる具体的事実があつたため、応用力の欠点、忍耐力の欠点等と評価されるに至つたのか、何一つ合理的な説明はなしえていない。このことは、勤務評定がいかにデタラメになされたかを端的に示す証左であつて到底規則第六条「勤務成績が良好でない」と判断される基準とはなりえない。即ち本件の場合客観的な勤務態度を具体的な基準によつて評定したものではないから勤務評定の結果を理由として免職することは許されないのである。
(2) さらに、被申立人は、申立人の病症を把え、病症自体から保母としての適格性を欠くのと驚くべき飛躍を行つている申立人の病症が如何なる理由で保母としての適格性に障害を及ぼすのか、その理由は現在まで何一つ明らかにされていない。
しかも被申立人は、申立人が「勤務時間内において届出なくして職場を離れたこともある」などと主張するが、右は申立人のレセプトを本件免職処分後病院から取り寄せた結果、たまたま山田内科に時間内診療の記載があつたことから「勤務時間内に職場を離れたに違いない」と邪推しただけであつて何ら客観的証拠に基づくものではない。
(3) 以上簡略に述べた如く、被申立人の免職理由は、全く不合理極まりない「デッチ上げ」であり、申立人に免職理由がないことは明白である。従つて、何ら合理的な理由もなく当該労働者を労働関係から窮極的に放逐する免職処分が行なわれたのであるから、当然に免職者を救済しなければならないわけで、執行停止を決定することに何ら抵抗はない。
三、申立人は保母として第五保育所に在職中、立花町より支給される五等級四号給二五、二八〇円(手取平均二二、〇〇〇円)の賃金を唯一の糧として自己の生活を維持し、かつ一家の財政補充にあてていた。即ち、申立人一家は、私立短大在学生を含め修学中の者四名、および父(八女市役所勤務)、母、申立人の七名家族であつて、むしろ大家族に属し、父山下寿の八女市役所から支給される賃金では到底生活することができず、相当な赤字家計(赤字月平均三三、〇〇〇円以上)であり、従つて申立人の立花町より支給される賃金は申立人の生活の維持のみならず、申立人一家にとつて極めて貴重な収入源であつた。
しかるに被申立人は、右の事実を故意に隠蔽し「申立人は父母と同居し、扶養されているので、小使銭に困ることがあつても、それ以上に損害は蒙つていない」と主張するが、事実は全く逆で、父母に扶養する能力は無であるといつてもよいのである。
そこで、本件免職処分による不利益は、単に申立人の生活の破綻を導くだけに止まらず、申立人一家に大きな負担増となつて影響し、一家の窮状を一層激化させるものであるから、本件免職処分により、回復しがたい損害を蒙つていることは明らかだといわなければならない。
四、よつて、申立人は、本件免職処分の取消を求めて昭和四五年一一月二七日、福岡地方裁判所に免職処分取消請求訴訟を提起したが、右本案判決の確定をまつていては、回復しがたい損害を蒙るので本件申立てに及んだものである。
別紙(二)
被申立人の意見
一、本件申立は本案について理由がない。本件免職処分について重大かつ明白な瑕疵は存在しない。
(一) (本件免職処分の理由)申立人は、昭和四五年四月一日付で立花町職員として地方公務員法第二二条第一項、「立花町職員条件付採用に関する規則」(昭和三七年七月二四日規則第一号)(以下条件付採用規則と略称する)により条件付で採用されたものであるが、申立人に対し、「条件付採用職員の勤務成績の評定に関する規程」(昭和四四年五月二一日訓令第一号)(以下勤務評定に関する規程と略称する)により職務に必要な適格性の有無を検討し、勤務成績の評定を行つたうえ、申立人の条件付採用期間中における勤務成績が良好でないと認められ、また、保母としての職務に必要な適格性を欠くと認めたので、申立人を正式に採用しないと決定し、同年九月三〇日付で退職を命じたものであり、本件免職処分はきわめて適法妥当の処分であり、これを取消さなければならないとする重大かつ明白な瑕疵は存在しない。
右の処分理由をさらに具体的にのべると次の通りである。
1 (勤務成績が良好でないとの評定について)前記「勤務評定に関する規程」により申立人に対して昭和四五年七月一日に第一次、同年九月一日に第二次の勤務成績の評定が行われたが、「勤務評定に関する規程」により申立人の勤務成績の評定は申立人の監督者である立花町厚生課長竹島保が所定の様式の評定表によつて行い、同課長は調製した第一次、第二次の各評定表を被申立人に提出し報告したものである。
申立人の総合得点は、第一次で五六点、第二次で五八点であり、評定の区分事項毎に見ても第一次評定で「応用力」、「忍耐力」、「機智」、「身体」が「2」点であり、第二次評定でも、「忍耐力」、「身体」、「気分の恒常」が「2」点であり正式採用するに足る標準に達せず、第二次評定における監督者竹島課長の正式採用についての意見も「総合点数の如く成績は良好ではなく採用には検討の要あり」というものであり、後記の監督者からの臨時的報告も併せ検討し、申立人の条件付採用期間中の勤務成績が良好でなく、また職務に必要な適格性を欠くと認めて正式に採用しないものと決定したものである。
なお申立人と同様昭和四五年四月一日付で条件付で採用された申立人以外の保母の勤務成績の評定における総合得点を見ると、
今井千波 第一次七七点、第二次八一点
大月美代香 第一次七二点、第二次七五点
橋本美代子 第一次五五点、第二次五七点
であり六〇点に達しなかつた橋本美代子に対しては、申立人に対すると同様正式に採用することなく退職を命じたものである。また、今井千波、大月美代香は昭和四五年九月三〇日付で「条件付を解く」との辞令を発し、正式に立花町職員として採用したものである。
2 (職務に必要な適格性を欠くことについて)申立人は虚弱な身体であり、条件付で採用された後、湿疹等の皮膚病、関節リウマチス、等の各種の疾病に罹り、八女市、立花町、久留米市の九病院において約九〇日にわたり通院し、その治療を受けるため、勤務時間内においても届出なくして職場を離れたこともある。
申立人はその疾病および治療の状況については、上司にこれを報告しないで秘匿していたため、申立人の監督者は、もとより、被申立人も当初は申立人の身体の状況を把握出来なかつたが、申立人が陰気で幼児の保育に適しないという地域住民間の風評があつたので、監督者においてこれを調査したところ、前述の如き疾病治療の状況が判明したので、監督者竹島課長は「勤務評定に関する規程」第四条により臨時に報告を行ない、被申立人はこれをさらに調査検討した結果、申立人の疾病が乳幼児の心身の健全な発達を目的とする保育業務において日常乳幼児と接触する保母の職務に従事させることは不適当であり、明らかに職務に必要な適格性を欠くと判断したものである。
二、本件免職処分により申立人に回復困難な損害を生ずるものとは考えられない。
行政訴訟法第二五条第二項にいわゆる回復の困難な損害とは、原状回復ないし、補填の困難な損害を意味し、免職処分によつて俸給が得られなくなつたというだけでは、他に特段の事情がない限り、処分の執行を停止すべき理由を欠くものといわねばならない。何となれば、処分の当然の結果たる不利益ないし損害は回復困難な損害には該当しないものである。免職処分により給与の支給を受けられないということは、それ自体、処分の内容ともいうべく、損害に当たるということはできない。
もし免職処分によつて、給与の支給がなく、収入の道を断たれることが回復困難な損害に当たるとすれば、ほとんどすべての行政処分はその内容のゆえに常に執行停止の積極的要件を具備することになり、執行不停止の原則を破壊する不合理な解釈といわざるを得ない。また給与の支給がなく、申立人の生計の維持に響くとしても、これは免職処分の結果として例外なく現れるものとも考えられ、かかる処分の結果、当然生ずる範囲の損害の場合、これが直ちに回復困難な損害に該当するということになるとすれば、そのような解釈は処分の内容それ自体回復困難な損害に当たるという解釈と実質上変わらないこととなつて不当である。
執行不停止の原則が現行行政法上の制度として存在し、その例外的措置として執行停止が認められるものである以上、執行停止を民訴仮処分と同様に取扱うことは許されないというべきである。
申立人は立花町職員として在勤中にも八女市大字平田五四九の三に居住する父母のもとにおいて同居生活して、同所より通勤していたものであり、退職後も同様父母のもとにおいて同居生活しているものである。そして、申立人の父山下寿は八女市役所の財政課長として勤務している地方公務員であり、その給与は同市給与条例に定める一等給二〇号でその基本給の月額は一一万二、二〇〇円、管理職手当がその一割であるから、同居生活している申立人がその父より扶養されていることは推察するに十分の理由がある。
申立人は未婚の女性であり、退職後小遺銭に不自由することがあるにしても、生活に困窮しているものでもなく、両親の援助にその生計の維持を仰がなければならないといつても、申立人が回復しがたい損害を蒙つているものとは到底認められない。かくて免職処分の効力を停止しなければならないほどの特段の事情は存在せず、申立人の生活破綻の主張に、これを回復困難な損害をさけるため緊急の必要があるときに該当するとは到底考えられないのである。
申立人は「本件免職処分により保育児の保育上、人格形成上重大な影響をもたらすものである」と主張し、また、「執行停止により生ずる結果は保育児の保育効果の向上人格形成に対する悪影響の除去というすぐれた公共の福祉に適つたものなのであるからその必要性は一段と大きい」と主張しているけれども申立人の如く、各種の疾病を有し、勤務時間中無断で通院治療を受けている不適格者を保育の任に当らせることこそ、かえつて保育効果に悪影響を及ぼすものであり、申立人の主張は理由がない。
三、申立人の主張する条件付採用に関する法律上の意見について。
地公法は任用制度における成績主義の原則を実現し、真に適格者を任用するために、競争試験および選考と任用候補者名簿による任用などの手続を規定しているが、競争試験または選考によつて判定された職務遂行の能力が実際の勤務においてそのとおり発揮されるか、また職員としての適格性を有するかどうかについては完全な保障はないといわざるを得ない。
そこで地公法第二二条第一項の規定により、職員の採用はすべて条件付のものとし、その職員がその職において一定の期間勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに適格を有するものとして正式採用となるものとされているのである。職員の選択の最終段階において、任命権者に、職員の職務遂行の能力、適格性を判定させる機会を与えることにより、競争試験または選考に伴う技術的欠陥を補充し、成績主義の原則を貫くことができるようにしているのが条件付採用制度である。即ち、条件付採用制度は一定の試験によつて採用した職員について、職員としての勤務成績等を考慮して、不適格者と認められる者を公務員関係から排除するものであり、その本質は正式職員として採用するための選択過程の一部である。そして、条件付採用期間中の職員はいわば暫定的地位にある職員ないし正式採否を検討中の職員といえるものであり、一般職員とは異りその身分保障は排除されその免職については任命権者に広範な自由裁量権が認められるものである。
法律においても地公法第二九条の二は条件付採用期間中の職員について身分保障に関する規定および不利益処分に対する不服申立に関する規定並びに行政不服審査法の規定は適用されない旨規定しているが、これは任命権者の自由裁量により免職することが出来ることを意味している。
申立人は「条件付採用制度は停止条件付ではなく条件付採用期間中に、不適格事由が存在すれば解雇することができるという解雇権の留保された特殊な労働契約関係が、条件付採用の当初から成立していると解さなければならない」と主張し、民間私企業における「試用契約」の性質を論じているけれども、地公法の明文の規定、特に地公法第二九条の二の規程を無視した独自の見解であつて本件に妥当するものではない。
申立人の主張によれば結局条件付採用期間中の職員についても、正式採用の職員と同様に、地公法第二八条に基く分限事項がなければ正式採用しなければならないこととなるが、これは地公法の定める条件付採用期間中の職員の身分的特殊性を全く無視することになる。